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新潟家庭裁判所 昭和53年(少)10531号 決定 1978年7月22日

少年 T・K(昭三五・八・一〇生)

主文

この事件については、少年を保護処分に付さない。

理由

1  本件送致事実は、少年が昭和五三年四月七日午後三時五〇分ころ、新潟市○○町×番地付近道路において、法定速度である三〇キロメートル毎時を超える五八キロメートル毎時の速度で、第一種原動機付自転車(新潟市○×××号)を運転した、というのである。

2  そこで、証拠につき検討するに、まず、司法警察員作成の捜査報告書中の「私が上記違反をしたことは相違ありません。事情は次のとおりであります。」と印刷された部分に「T・K」という署名と指印があり、少年の当審判廷における供述によれば、同署名及び指印は少年のなしたものであることが認められる。また、前記捜査報告書中に、少年が「友達と一緒に走り、スピードを出してみたくなり違反した。」という趣旨の弁明をした旨の記載がある。さらに、司法巡査作成のレーダー式車両走行速度測定装置による最高速度違反現認書には、違反日時につき四(月)七(日)一五(時)五〇(分)、走行速度につき五八(km/h)、違反車両につき新潟市○×××といずれも手書された記録書が貼付されたうえ、指印により契印されており、少年の当審判廷における供述によれば、同指印は少年のなしたものであることが認められる。そして少年が検挙された際の最高速度違反取締において監視視認係を務めた証人A及び同じく取調べ係を務めた証人Bはいずれも当審判廷において、少年を検挙した際の記憶は既に無いが、前記記録書に走行速度が手書されていることからすると、少年運転の車両について他の近接した最高速度違反車両と同一速度で走行したものと監視視認係が判断してなされた措置であろうと、供述している。

3  しかしながら、前記各証拠は少年の最高速度違反を証明するに足りないものである。即ち、まず、前記最高速度違反現認書はレーダー式車両走行速度測定装置の使用を前提とするものである。そして、同現認書によれば、同装置の本体から発射される電波ビーム内を、取締設定速度以上の速度で車両が通過したときは、その走行速度の数値が記録器により自動的に記録書に印字されるものであることが明らかである。したがつて、前記現認書に貼付された記録書のように走行速度の数値が手書されているものは、走行速度に関し証明力が極めて乏しいものというべきである。また、証人A及び同Bの前記各供述から窺えるように、仮に監視視認係である前記A巡査において、少年運転の車両が、前記測定装置により走行速度を測定された他の車両と同一の速度で走行したものと判断したとしても、そのような速度の同一性についての判断は極めて不正確なものにならざるを得ず、したがつて、前記測定装置による測定値の正確性が少年運転の車両の速度についても同様に保障されるとは、到底いえないのである。

4  そこで、少年が取調を受けるに至つた経緯について検討する。証人C、同D及び少年の当審判廷における各供述によれば、次のとおり認められる。即ち、昭和五三年四月七日午後三時五〇分ころ、少年、前記C及びDの三名はそれぞれ第一種原動機付自転車に乗り、いわゆる○○線道路を山の下方面に向かつて走行し、いわゆる△△線道路との交差点を左折する際、少年が先行して左折したが、C及びDは赤色信号により停止した。そこで、少年はC及びDが左折するのを待つため一旦停止したが、同人らが左折してくるのを認めて発進し、同人らが追い着くのを待つためおよそ二五キロメートル毎時の速度で走行した。ところが、C及びDは少年に追い着こうとして高速度で走行したため、新潟市○○町×番地付近道路において、Cが六四キロメートル毎時、Dが五八キロメートル毎時の最高速度違反をそれぞれなし、前記測定装置により記録されるところとなつた。これに対し、少年は、まずCに追い越され、次いでDに追い越されたので、およそ三〇キロメートル毎時に速度を上げたものの、前記測定装置の本体があることに気付いていたこともあつて、それ以上の高速度では走行しなかつた。ところが、少年がDに追い越される際に同人と言葉を交わしたところ等を前記監視視認係に認められたためか、Dと同様に五八キロメートル毎時の速度で走行したとして、前記B巡査により取調べを受けた。少年は不本意ではあつたが、抗議しても無駄とあきらめて、前記二項の捜査報告書の署名及び指印並びに同最高速度違反現認書の指印をなした。

5  以上に検討したところによれば、前記二項に掲げた各証拠をもつてしても、少年が第一種原動機付自転車を法定速度を超える速度で運転した事実を認めることはできないといわざるを得ない。したがつて、この事実については少年を保護処分に付することはできないから、少年法二三条二項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 小林孝一)

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